PathPort どこでも病理ラボ5周年プロジェクト
PathPortオフライン「5周年だよ、全員集合!」ショートプレゼン大会
第115回日本病理学会(札幌) コンパニオンミーティング
2026年4月17日(金) 18:00~19:30
京大病理の寺本です。よろしくお願いします。
日日の病理診断のなかの楽しみ、と言いますと、ヘンな形態を見つけて「これ~に似とるなぁ」なんて妄想することが挙げられますが、
たとえばOligodendrogliomaの目玉焼きであるとか、
Burkitt lymphomaのStarry skyであるとか、そういった言葉は教科書にも堂々と載っています。
なぜこのような比喩を用いるのかというと、その理由はふたつあるでしょう。
ひとつは、共通の視覚的語彙として専門家間のコミュニケーションを円滑にするということ。
もうひとつは、初学者向けですね。「核の周囲が白く抜けているだろう?」と教えるよりも、
「これ見とうみ。なんかに似てへんか?」と問う方が「なるほど!」と思って貰いやすい、ということですね。そういった記憶は案外永く残るものです。
今回注目した溝のある核をコーヒー豆になぞらえる比喩についても、既に1943年、もう80年以上前、なんと戦前ですね、のブレンナー腫瘍や明城結節について述べた論文ですでに
登場していました。そこではいろいろパターン分類がされていたわけですが、
今回、某F先生にそそのかされて、「認定珈琲インストラクター1級」兼「病理学会認定病理専門医」という、あ、ダブルライセンスですね、その先生に「コーヒー豆の形態学的分類」について御指導頂いたのですが、
これは非常に厳しい道のりでした。
いろいろと、
いろいろと、
いろいろと、ですね
見せてくださったのですが、
ぜんぜん違いが分かりません。
辛うじて理解出来たのが、このようにロブスタ種は丸みがあって、核溝・センターカットが核の豆の端まで届かない、ということ、
アラビカ種はセンターカットが核の端から端まで届いて、扁平であるという点くらいで、
ちょっとこれ以上の理解は難しい感じだったのですが、
上級者は、このようなLangerhans cell histiocytosisの核溝を見ますと、核が肉厚で丸っこく、センターカットが端まで届いていないことから、ロブスタ種の特徴を感じ取り、そして、このようにくびれた核が存在することから、精選過程由来の変形を推定。特に水分を残した状態で脱殻する工程、特にスマトラの風を感じるそうです。つまり、この1枚の顕微鏡所見から、インドネシアのコーヒー豆に特有の濃厚なコクと深い苦味、土やスパイスのような独特な野性味が立ちのぼる、というわけです。
また、ブレンナー腫瘍は核のサイズ感が揃っていることから、スクリーンサイズ――コーヒー豆の大きさのことですが――で格付けを行っている国、つまりコロンビアやケニアが推定されるそうです。ええ。上級者には。そしてそれだけでは終わらず、核溝――センターカットがS字になるものが多いと、コロンビアを想起し、爽やかな酸味と甘みが脳裡に浮かぶのでした。
ではこちらはどうでしょうか。これはadult granulosa cell tumorですが、このように小粒な豆で端から端までセンターカットがあるのは、まさに「ブラジル!」です。つまり、ええ、そろそろお分かり頂けたかと思いますが、ナッツやチョコレートのような香ばしさ、それこそが、この成人型顆粒膜細胞腫を前にした上級者の見る――いえ、感じる味、というわけですね。
私はまだまだその境地に達していない未熟者ですが、
日日の病理医生活をエンジョイ&エキサイティングなものにするために、こういった、ちょっとした遊び心を大事にする余裕をもちたい――いや、それだけではなく、こういった比喩を逆輸入することで、核溝の形態学的分類から異なる組織型における共通のメカニズム、病態生理への新たな発見が、もしかするとあるかもしれない、なんてことを考えながら、私は毎日顕微鏡を覗いています。
御清聴ありがとうございました。
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