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日錄
本川根診療所のおもいで
今は知らないが、むかしの研修医には「地域医療研修」というものが課せられていた。「地域」での「医療研修」とはたいそうな御題目だが、要するに田舎診療所の勤務体験である。他人の靴にそっと石を入れ、さてどこまで歩けるかと眺めるのが好きな官僚が... -
箚記
秦良玉は美少年を囲っていたのか?
あまり気が進まないが、「秦良玉が男妾を囲っていた」という『蜀碧』の記述について書いておこう。秦良玉の傳と分けたのは、下世話な話を一緒にしたくなかったためである。 『蜀碧』(国会図書館デジタルコレクション) 巡撫邵捷春移秦良玉兵至重慶。時... -
箚記
ソテツを食べるはなし
また沖縄で病理学会をやらないかな、と思っている。 たいてい座長やらなんやらで呼ばれるし、そうでなければ演題を出せばいいだけである。開催されるとすれば秋であろうし、とすれば、海の蒼が夏のそれより一段深まる頃である。喧騒も去り、礁に隔てら... -
箚記
アーネスト・サトウと「たまごとじ」
「生卵を食べちゃいけないよ」 アメリカに行ったとき、はじめに注意されたのはこのことだった。 先人の教えであるから私もしばらくそれを墨守していたのだが、あったかいごはんに卵と塩昆布をのせたものの美味しさを知っている身としては、日日生殺... -
箚記
レファ協データベース未解決事例あれこれ
レファレンス協同データベース(以下レファ協)というものがある。 国立国会図書館が主宰し作成したレファレンス事例のデータベースであり、私もたまに調べ物の際に検索することがある。たいへんよいことに、未解決事例についても待考として調べ得た限... -
箚記
泳ぐサシミと呉越同舟
アメリカで生活を始めて数週間経ったある夜、妙な夢を見た。 誰かに「塩サバと刺身を釣りに行こうぜ」と言われ、網をもとめて家のなかを探し回る夢である。夢などすぐに忘れるものだが、夢に出てきた何者かが言うに、その刺身は「ホッケ」のものだとい... -
箚記
みみず書房 ―― みみず雑話
みみず書房 先日とある論文を読んでいて、最後に参考文献をちらと眺めたとき、「みみず書房(書店)」とあって思わず笑ってしまった。 うーむ。仏文の先生なので、さすがにこれは植字工の誤りなのだろう。いやまあちゃんとゲラを確認するべきではあるの... -
箚記
ながらみ
浜松の居酒屋に行ったとき、「お通しです」と小さな巻貝の酒蒸しが出てきたことがあった。 「これ何の貝?」と同僚に尋ねると、「あれ、知らないんですか。ながらみですよ」と教えてくれた。関西では見かけない貝である。 彼がどうやって食べるか観... -
箚記
「鰹酔い」はヒスタミン中毒だろうか?
貞享四年の芭蕉の句にこんなものがある。 鰹すらん カツオ売りの威勢よい掛け声が響く初夏を詠んだ句だが、このカツオを食べてなるという「酔い」とはいったいどういうものだろうか? この時代の魚の調理や中毒について詳しく記載した書籍となる... -
箚記
風邪っぴきとうどん
子供のころ、母がときどき「コーセツイチバに行ってくる」と言うので留守番をしたことがあった。幼い私は「コーセツイチバ?」と思いつつ母が帰ってくるまで家の中でひとり遊んでいたのだった。 今は「XX公設市場」というものは多くが廃れたようである... -
箚記
イナゴの佃煮と洗礼者ヨハネ
ひところ、京都から静岡に週一回通っていた。 朝は六時半。始発の新幹線に乗り、在来線とバスを乗り継いで勤務先に着く。着けば九時半。そこから一週間分の仕事に取りかかり、夜は当地で一泊。翌日も仕事の続きをやり、嵯峨嵐山駅の階段をふりかえると... -
箚記
赤福の創業は宝永年間なのか?
久しぶりに実家に帰ったとき、居間に小さな盾が飾ってあるのを見つけた。小学生の頃に修学旅行みやげとして買ったものである。プラスチックの盾にひとつ模造真珠がくっついた安物だが、よくもまあ残っていたものだ。 今は広島や北陸などいろんな所に行... -
箚記
釜の中の二匹の魚
本棚の整理をしていると、ときどき買った覺えのない本が見つかることがある。 『玄玄碁経集 2』という本もそれで、なぜ買ったのかさっぱり思い出せない。私は勝負事はからっきしで、囲碁は「なんか知らんけど囲えばいいんだろ」というレベルであるから... -
箚記
揚州の鶴と陳州の鶴
私はハンバーガーやピザがすこし苦手である。 と言っても最初からそうだったわけではない。そうなったのは、アメリカでしばらくそればかり食っていたせいである。渡米当初は調理具もないし、とかく忙しかったので、毎度病院食堂で飯を食っていたのだが、... -
箚記
馬の去勢
Youtube のおすすめというのは不思議なもので、ときどき妙なものを挙げてくることがある。 https://www.youtube.com/watch?v=GCuJaC1VZVE 私は確かに前立腺や膀胱、精巣、腎臓といった泌尿器系臓器について主に仕事をしているが、対象は人間である。い... -
箚記
Facing the ocean, I call your name, helpless.
アメリカにいたころのはなし。 私がいた都市には Japanese language church というものがあった。日本人向けの教会である。 ふつう Japanese church と称するところ Japanese 'language' church と妙な注釈が入っているのはなぜだろうと思っていたが... -
箚記
仏印からの留学生
ベトナムの古典『金雲翹』の成立過程について調べていたとき、大阪朝日新聞に「佛印初の日本留学生フアム・ダイ・タイ君」という記事をふと見つけた。 かう語るのは佛印最初の日本留家の出であり、目下パリに留学中の實兄ファム・フイ・トン氏はテー・ル... -
箚記
毛利の殿様とカツオ
毛利の殿様が紀州公に招待され、饗応を受けたときのこと。ある魚を供されたが、殿様それが何か分からない。食してみると大層美味であったので名を尋ねると、松魚とのことであった。屋敷に戻り、時々松魚を料理して出すよう料理方に命じたところ、それを... -
箚記
上海たまご
世の中には「地図帳好き」な人というのがいて、おそらく私もその一人である。 帝國書院『新詳高等地図』さえあればいくらでも時間を潰せる子供であったから、今でも暇があると古い地図や Google maps を眺めるのを常としている。 さて、先日 Wikimed... -
箚記
スンスンおじさんの真実
この歳になるとめったにゲームはやらないが、Europa Universalis や Hearts of Iron のような歴史に材を採ったものならばたまに触ることがある。 さて、Hoi2 player なら誰でも知っている有名な写真に「スンスンおじさん」というものがある。 フラン... -
箚記
干柿の白い粉
子どものころ、おやつにときどき干柿や干し芋が出た。 いつしか私は白い粉をたくさん吹いたものを自然と選ぶようになったのだが、長いことそれを不思議に思っていた。経験的にその方が美味いのである。 あるとき「あの粉は後づけされた甘味料で、そ... -
日錄
刑務所のにおい
駆け出しのころの記憶――。 精神科の研修中、指導医が刑務所に往診に行くというので「僕も行きまーす!」とカバン持ちを買って出たことがあった。 「入ったことないんですよ!どんなところなんでしょうね?」 バスの後部座席に揺られつつ、私はしきり... -
箚記
父と子と汁かけ飯 ―― 飯に汁をかけてはいけないか?
こどものころ、よく味噌汁をごはんにかけて食べていた。 そのたびに前で食事をしていた父が「ねこまんまだな」と渋い顔をしたのを憶えている。「どうもこれは不調法な行いらしい」といつしかやめてしまったのだが、今でも内心腑に落ちない思いが残って... -
箚記
蜀のムーランと明玉珍の乱
「ムーランって誰やろ?」 USCAP Annual Meeting でロサンゼルスに行ったとき、「久しぶりに豚骨ラーメンが食いたいなぁ」とリトルトーキョーをふらふら歩いていたら、いたる所にアジア人女性が大写しになった映画広告があった。よく見ると MULAN と書か... -
箚記
緑の雪が降ると
ある朝、雪を踏みながらラボに向かっていると、道端に寄せられた雪が一部やや緑がかっていることに気がついた。 「彩雪現象だろうか」としゃがみこんで観察したところ、ますますそれっぽく見える。 彩雪現象とは雪が赤や緑などに染まって見える現象... -
箚記
鯛の子
永禄十一年(1568年)5月、当時越前一乗谷に寄居していた足利義昭が朝倉義景を訪ねたときの記録(『朝倉亭御成記』)を眺めていたら、献立に「たいのこ」を見つけた。 『朝倉亭御成記』/『群書類従』所収(国立公文書館デジタルアーカイブより) 「九... -
箚記
少女架刑
呼吸がとまった瞬間から、急にあたりに立ちこめていた濃密な霧が一時に晴れ渡ったような清々すがすがしい空気に私はつつまれていた。 十六の少女が生を終えたところから、この短篇ははじまる。 極貧に育った彼女は、家計のために働かされるうち、肺炎... -
箚記
赤穂のカレー
赤穂城の近くにほんのすこしだけ住んだことがある。 「住んだ」というのはかなり大げさで、赤穂城の近くにある病院に三週間ほど泊まりがけで実習に行ったことがある、というだけである。関西から赤穂だと新快速で通えないこともないが、せっかくなので... -
箚記
柚子酒の藝
細胞診の講習会で香川に行ったとき、高松駅近くの居酒屋で初めて柚子酒というものを飲んだことがあった。口に含むとツンとした芳香が鼻に抜け、微かな苦みが喉を滑り落ちる感触が心地よく、帰りの夜行列車が入線するまでの時間潰しと思いつつ、少し過ご... -
箚記
『封神演義』のハンバーグさんはハンバーグになったのか?
寝ぼけあたまで本を読んでいて「ハンバーグ種はよく卵を産む」なんて文を見て目が醒めた。……なんのことだい。ハンバーグのタネが卵を産むって。 前後をよく読むと、このハンバーグというのはニワトリの品種のことだった。どうも明治の頃は「ハンバーグ...
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