Fake unadon in New York

 ニューヨーク州に留学していたと言うと、「大都会ですね」と言われるのだが、私が居たのはニューヨーク州の北の端である。

 四国がすっぽり入る巨大な淡水湖であるオンタリオ湖畔にある都市で、私はよく「ニューヨークシティを京都市とすれば舞鶴らへんですね。どっちも京都府ですがだいぶん違います」なんていう説明をした。だが、それにしたって、地理関係はまあまあそんなものだが、距離感はかなり違う。京都市から舞鶴なら片道二時間かかるまいが、私が居たところからニューヨークシティに出るには、車で片道最低六時間の道のりであった。

あっと『のんのんびより』1巻

 そういえば一度、同じ日本人留学生で小児救急の某先生にニューヨークシティまで連れて行ってもらったことがあった。ニュージャージーの日系スーパーマーケットで正月食材を仕入れよう、ついでに NY city を一巡り、という企画である。車を運転しない私は COVID-19 禍のせいもあり半分引きこもりのような生活を送っていたが、それを見かねて誘ってくれたのである。

 「NY州では免許を取って半年以内に違反すると免停になるんですよね」と言いつつ、制限55マイル(89km/h)の所をギリギリ捕まらない75マイル(120km/h)でかっ飛ばしてくれたおかげで、街を出ること6時間、ミツワマーケットに到着した。

 ミツワマーケットは COVID-19 のため入場人数制限がかかっており、長い行列ができていた。ただ、30分ほどで入ることができた。

 私は久しぶりに見るカズノコやら、栗きんとんやら、日本酒やらを前にしてすっかり気が大きくなってしまい、大量に買いこんでから、それらが日本の数倍の値段であることに気づいて「おお」と絶句したのだった。運転してくれた先生の方は、ボスに細々とお使いを頼まれていたらしく、メモを見ながらネギやらインスタントラーメンやらをカートに入れており、私の脳天気で欲望に沿ったチョイスを申訳なく思ったのだった。

 さて、その買いこんだものの中に「うな丼」があった。お弁当コーナーにあった大きなウナギが二尾のった丼物で、「こりゃ美味そうだ」と見た瞬間にカートにつっこみ、某先生にも「ほらこれこれ!ウナギですよ!」と勧めたのである。残念ながらこの御時世で食事処はどこも閉鎖されていたから、車の中で弁当をめいめい食べたのだが、そのウナギを一口食べて妙な気がした。どうもウナギの味ではないような気がするのだが、何かよくわからない。タレはいつもの味だが、魚の身の方は硬く、ウナギのようなふわふわした食感ではない。いったいこれは何だ、と首をかしげつつ食べ終わってしまった。

 私はてっきりウナギの味を忘れてしまったのかと思い、なんとなく気落ちした日日をすごしていたが、後日その先生から「あれ、サバでしたね」と言われ、やっと腑に落ちたのだった。

 この fake unadon だが、むかし井伏鱒二がどこかでこんなことを書いていた。戦時中、食管法のため多くの飲食店が休業を余儀なくされるなか、依然として「蒲焼」を売る店があったという。今も昔も「蒲焼」ならウナギの蒲焼であろう、と思うのが普通で、井伏もそう思って足繁く通ったそうなのだが、戦後店の親父が語るには実はライギョのものであったという。

 私はライギョを食べた経験がないが、開高先生によれば淡泊な白身であるらしく、たしかにあのタレをかければウナギと間違えてもしかたないと思われる。

 うん。ウナギのタレは偉大な発明である。

 その偉大なタレの作り方は簡単で、醤油、みりん、砂糖、料理酒を 2 : 2 : 1 : 1 の割合で混ぜて煮詰めるだけである。この fake unadon に騙されて以来、私は時々このタレを作ってはごはんに掛けて食べ、「ああうな丼っぽい……」とぼやきながらアメリカの日日を耐えたのであった。

アメリカでヘイトクライムが絶えないのは「のんのんびより」を放送しないからなのは確定的に明らか。

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