Teramoto Yuki– Author –
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箚記
上海たまご
世の中には「地図帳好き」な人というのがいて、おそらく私もその一人である。 帝國書院『新詳高等地図』さえあればいくらでも時間を潰せる子供であったから、今でも暇があると古い地図や Google maps を眺めるのを常としている。 さて、先日 Wikimed... -
箚記
町中華のスープ
グレゴリ青山さんの『ナマの京都』を読んでいたとき、担当の談として「生まれも育ちも京都だし、おいしい食事処を教えてよ」と訊かれたが、ご飯はいつも家で食べていたので王将しか思いつかなかった、という笑い話があった。 グレゴリ青山『ナマの京都』... -
箚記
病理医の昼寝
仕事中によくうつらうつらする病理医はメガネを見ればわかる。顕微鏡の接眼筒にぶつけた痕がメガネのレンズに残るからである。だいたいこんな感じである。 「病理医を犯人です」とかいう決め台詞でミステリのネタにでもしたら面白いかもしれない。 と... -
箚記
スンスンおじさんの真実
この歳になるとめったにゲームはやらないが、Europa Universalis や Hearts of Iron のような歴史に材を採ったものならばたまに触ることがある。 さて、Hoi2 player なら誰でも知っている有名な写真に「スンスンおじさん」というものがある。 フラン... -
箚記
干柿の白い粉
子どものころ、おやつにときどき干柿や干し芋が出た。 いつしか私は白い粉をたくさん吹いたものを自然と選ぶようになったのだが、長いことそれを不思議に思っていた。経験的にその方が美味いのである。 あるとき「あの粉は後づけされた甘味料で、そ... -
日錄
刑務所のにおい
駆け出しのころの記憶――。 精神科の研修中、指導医が刑務所に往診に行くというので「僕も行きまーす!」とカバン持ちを買って出たことがあった。 「入ったことないんですよ!どんなところなんでしょうね?」 バスの後部座席に揺られつつ、私はしきり... -
箚記
父と子と汁かけ飯 ―― 飯に汁をかけてはいけないか?
こどものころ、よく味噌汁をごはんにかけて食べていた。 そのたびに前で食事をしていた父が「ねこまんまだな」と渋い顔をしたのを憶えている。「どうもこれは不調法な行いらしい」といつしかやめてしまったのだが、今でも内心腑に落ちない思いが残って... -
箚記
蜀のムーランと明玉珍の乱
「ムーランって誰やろ?」 USCAP Annual Meeting でロサンゼルスに行ったとき、「久しぶりに豚骨ラーメンが食いたいなぁ」とリトルトーキョーをふらふら歩いていたら、いたる所にアジア人女性が大写しになった映画広告があった。よく見ると MULAN と書か... -
箚記
緑の雪が降ると
ある朝、雪を踏みながらラボに向かっていると、道端に寄せられた雪が一部やや緑がかっていることに気がついた。 「彩雪現象だろうか」としゃがみこんで観察したところ、ますますそれっぽく見える。 彩雪現象とは雪が赤や緑などに染まって見える現象... -
箚記
鯛の子
永禄十一年(1568年)5月、当時越前一乗谷に寄居していた足利義昭が朝倉義景を訪ねたときの記録(『朝倉亭御成記』)を眺めていたら、献立に「たいのこ」を見つけた。 『朝倉亭御成記』/『群書類従』所収(国立公文書館デジタルアーカイブより) 「九... -
箚記
少女架刑
呼吸がとまった瞬間から、急にあたりに立ちこめていた濃密な霧が一時に晴れ渡ったような清々すがすがしい空気に私はつつまれていた。 十六の少女が生を終えたところから、この短篇ははじまる。 極貧に育った彼女は、家計のために働かされるうち、肺炎... -
箚記
「爪痕を残す」が否定的な意味だって?
日日利用するオンライン辞書に JapanKnowledge というサイトがある。 私はいつも公式のアイコンに従ってJKと略しているのだが、どうも一般にはJKというと別のものを指すらしい。あるとき「JKのサブスクリプションはいいよ」と言ったところ友人に妙な誤... -
日錄
25セント硬貨からの解放 ―― PayRangeの使いかた
アメリカのちぐはぐなところは、ほとんどクレジットカード一枚で済むくせに、妙なところで現金や小切手を要求されるところである。 アメリカのアパートには各部屋に洗濯機がなく、洗濯はコインランドリーで行うのが普通である。アパート内に併設されて... -
日錄
NANKA SEIMEN の太長うどん
ネパール人がやっているカレー屋で 「ナンかライス選べます」 と訊かれてちょっと戸惑ったことがある。文字に起こすとナンの変哲もない問いかけだが、「なんか」がフラットに一語ひと続きで、「ライス」との間に一拍あったせいで、 「なんか(知らんけど... -
病理
Morning Review 20250710
Cutaneous plasmacytosis 皮疹の分布・性状とリツキシマブ不応といった臨床経過から、皮膚MALTリンパ腫→皮膚形質細胞増多症に診断変更。 Immunohistochemistry: Positive: IgG Negative: IgG4, IgM, EBER-ISH Ig kappa/Ig lambda ratio: 4 Ki-67 labe... -
日錄
アメリカの火災報知器
“ATTENTION, ATTENTION, ATTENTION. AN EMERGENCY HAS BEEN REPORTED. ALL OCUPANTS WALK TO THE NEAREST STAIRWAY EXIT, AND WALK DOWN TO YOUR ASSIGNED RE-ENTRY FLOOR OR MAIN LOBBY. DO NOT USE THE ELEVATOR. DO NOT USE THE ELEVATOR. WALK TO THE ... -
箚記
飯降るヨーロー・タウン
『神明鏡』という本を読んでいたら「ごはんが雪みたいに降ってきたよ!はじめ怖かったけど皆で食べたんだ。不思議だね」なんて話が書かれていた。 『神明鏡』/「『續群書類従』第貳十九輯上(国立国会図書館デジタルコレクションより) 「天平十年戊寅六... -
創作
しろの断章
茶碗にごはんを盛ると、中心から溶岩が湧いた。音はなかったが、靴が濡れた。 部屋の角に誰かがいて、名前を持たないという理由で許された。空気が白く、咳をしたら文庫本になった。ページを開くと、すべての行に「いまここじゃない」と書かれていた。 ホ... -
箚記
醬の禁忌
『異苑』に、幽霊の子を孕んだが、生まれてきたのは水だけだったという話がある。 晉潁川荀澤,以太元中亡,恆形見。還與婦魯國孔氏嬿婉綢繆,遂有妊焉。十月而產,產悉是水,別房作醬。澤曰:「汝知喪家不當作醬而故為之。今上官責我數豆,致劬不復堪。」... -
創作
宿泊先
「先生、今度の広島出張の旅費申請ですけど、宿泊されます?」「うーん、悩みますね……京都からなら日帰り圏やし」「まあ新幹線2時間弱ですからね。一応、予定としてどうされますか?」「最悪、泊まる場所はありますしね」「あっ、ご親戚とか?」「お墓です... -
箚記
『妬記』私訳
『妬記』は南朝宋の虞通之の手による書物で、晋代における女性の嫉妬の逸話を集めたものである。この本が編まれた経緯については、『宋書』后妃傳に、降嫁した公主がみな嫉妬深かったので太宗(劉彧)が憂えて近臣の虞通之に『妬婦記』を編纂させたとあ... -
病理
Weekly Review 20250609
Colonic adenocarcinoma, PMS2/MLH1 loss, BRAF V600E(-) Percent residual viable tumor(%RVT) %RVT = 生存腫瘍面積 / 腫瘍床全体面積 × 100 %RV%T ≤10%; MPR (major pathologic response) %RVT = 0%; pCR (pathologic complete response) 十分な量のス... -
箚記
水ようかんの缶詰
赤松則良がオランダ留学に向かったとき、バタヴィアを発ってセントヘレナに向かう航海中、マダガスカル沖で桃の缶詰を食べたことを記している。船長が元日の祝いに出してくれたもので、時に文久三年正月(西暦1863年2月18日)のことであった。同行してい... -
病理
Weekly Review 20250602
Neuroblastoma, PHOX2B(+) PHOX2B: Paired-like homeobox 2B PHOX2Bは自律神経系の発生に必須の転写因子 腫瘍細胞や未熟な神経節細胞の核に特異的な染色性を示す 神経芽腫(neuroblastoma)のほぼ全例で強陽性となり、他のsmall round cell tumor (Wilms/E... -
箚記
城のようなホテル
私が若く潔癖であったころ、田園地帯の車窓をぼんやり眺めていたとき、尖塔をいくつか従えた城のようなホテルが見えてきたことがあった。屋根は毒々しいピンク色で、夜はおそらく城全体を浮かび上がらせるのであろう、古びた電飾が何重にも白い外壁を這... -
箚記
赤穂のカレー
赤穂城の近くにほんのすこしだけ住んだことがある。 「住んだ」というのはかなり大げさで、赤穂城の近くにある病院に三週間ほど泊まりがけで実習に行ったことがある、というだけである。関西から赤穂だと新快速で通えないこともないが、せっかくなので... -
箚記
水になった子
イブン・バットゥータの『大旅行記』をゆっくり読んでいる。 バットゥータは1325年、21歳の時にタンジール(ジブラルタル海峡に面したモロッコ北部の都市)を出発し、聖地メッカに巡礼の旅に出た。『大旅行記』は、約三十年後故郷に戻ったバットゥータ... -
病理
Weekly Review 20250512
Sclerosing pneumocytoma K***大病院では2002-2025年で21例。 M:F=2:19, age: median 54, range 27-74 H2504483, 59M, bone marrow biopsy Flow cytometryで1.5%しか検出されないとき、骨髄検体で免疫組織化学を行う必要があるか?→そこまで少ないとIHCで... -
箚記
張献忠の人の殺しかた――『蜀碧』手抄
張献忠は子供のころ、父親の棗売りについて蜀に来たことがあった。父親が驢馬を郷紳の門前につないでおいたところ、驢馬が糞尿で石柱を汚した。その家の下僕は怒り、張献忠の父親を鞭打つと、手で糞をすくって捨てるよう命じた。張献忠は柱の陰で下僕を... -
病理
Weekly Review 20250508
Lung adenocarcinoma submitted to Amoy Diagnostics Why Amoy? 治験登録の関係で早く結果が必要だった Amoy (~1 week) ≤ コンパクトパネル < オンコマイン Plasmacytoid urothelial carcinoma 類円形やや偏在する核を有する腫瘍細胞のシート状~個細胞...