宿泊先

「先生、今度の広島出張の旅費申請ですけど、宿泊されます?」
「うーん、悩みますね……京都からなら日帰り圏やし」
「まあ新幹線2時間弱ですからね。一応、予定としてどうされますか?」
「最悪、泊まる場所はありますしね」
「あっ、ご親戚とか?」
「お墓ですね」
「またその話ですか⁉︎」
「いやほんまに、曾祖父ひいじいさんの代まで広島におって、墓あるんですよ」
「だからって泊まる場所としてカウントしないでください!」


「なんかうちの先祖、毛利隆元に負けて帰農したらしくて」
「戦国からやり直さなくていいです!」
「だから墓の立地はええとこなんですよ。眺めもいいし、静かでWi-Fi以外は完璧」
「いやそもそも泊まっちゃダメなんですよ!」


「実はね、その墓にはもうひとつ意味があって」
「……?」
「ひいじいさん、成金やったんですよ。燕の食器売って儲けて、奥さんとは別に、広島に妾さんがいたらしくて」
「……それ、墓の話のテンションで語ることですか?」
「で、その妾さんとその一族、原爆で亡くなったらしいんです」
「…………」
「ひいばあさんの方は、それ聞いたときに“せいせいしたわ”って言うたらしいです」


「……人間、こわ。」
「でしょう?だから墓に泊まるのも気ぃ遣うんですよ」
「いや、もうその墓、密度が濃すぎる!」
「病院も赤字やって大変でしょ?経費削減と先祖供養、同時にできるってお得やと思うんですけどねぇ〜」
「出張で業を背負わないでください!」

(しゃあないなぁ……)

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