おにいちゃんもうがまんできないわたしをおんなにして

 No Game No Life: Zero で Riku とSchvi が出会ったとき、Schvi が棒読みで「おにいちゃんもうがまんできないわたしをおんなにして」と言うのだが、その場面の字幕にこうあった。

I can’t resist you, Big Brother. Make a woman out of me.

 Make A (out) of B は要するに make B become A だから、直訳すれば「私を女にしてください」である。

 「男にする」「女にする」という表現が生物学的性 biological sex の変更を意味するものでないことは(さすがに)言うまでもないが、こういった表現は英語圏あちらさんでも通じるものであるらしい。

 ”Make a man out of…” の方は、『學問ノスヽメ』の英訳書で 「コレヲ導テ人ト爲サントスルニハ」を “To make a man out of him” と訳しているのを見かけたことがあるから*、どうも普通に通じるようである。そして “make a woman out of…” という表現もあるのだ、という、まあアレな知識を得たのであった。
* Yukichi Fukuzawa, translated by David A. Dilworth. An Encouragement of Learning. Columbia Univ Pr (December 17, 2013)


 なぜこんなことを思い出したのかというと、西鶴の『好色一代女』を読んでいたら「私(女)を女にして」「主人(女)は男になって」というハナシがあったからである。

 語り手は渡り奉公の女で、女が堺大道筋の御隠居に雇われたときの告白である。女は奉公先が御隠居と聞いててっきり男だと思いこみ、間男でもこさえつつ財産を奪ってやろうと目論んでいたが、家に着いてみると相手が婆様だったのでガッカリ、という場面から。

このお家に五七人もめしつかひの女ありしが、それ/\の役あり。自らばかり隙あり顔に様子を見あはせけるに、夜に入りて、「お床をとれ」とありける。これまでは聞えしが、「かみさまと同じ枕に寝よ」とは心得がたし。これも主命なればいやとはいはず、「お腰などさすれか」とおもへば、さはなくて我を女にして、おぬしさまは男になりて、夜もすがらの御調謔。さてもきのどくなるめにあひぬる事ぞかし。
 うき世は広し、さま/″\の所に勤めける。このかみさまの願ひに、「一度は又の世に男とうまれて、したい事を」とおほせける。

『好色一代女』巻四「栄耀願男」

 奉公先の家には五、七人も召使いの女がおり、それぞれ役目を与えられていましたが、私だけは暇を持てあましておりました。しかし夜になりますと「同衾せよ」と命ぜられました。(こちらもそのつもりでおりましたから、異存はございませんが)相手は七十をいくつかこえた婆様で、どうにも合点がゆきません。まあ主人の命令ですので嫌とも言えませんでした。てっきり「腰をさすってくりゃれ」と言われるのかと思っておりましたら、そうではなく、婆様が男になり、私を女にして一晩中体を弄ばれました。まったくとんだ目にあったものでございます。
 世間にはいろんな人がおりますね。私もいろいろなお勤めを経験をしましたが、この婆様はつねづね「来世は男に生まれて、女にあんなことやこんなことをしてみたい」と仰っていたとのことでございます。

 まあ、なんだ。この手の表現は昨今はやりの political correctness 的には受けが悪かろう。このまま彼奴らの勢力が伸長すれば、「男にする(なる)」「女にする」もまた不通になるのだろうなぁ、と思ったのだった。

  • URLをコピーしました!
目次